8月初めのある日、車を運転していると携帯電話が鳴ったので交通量の少ない脇道に車を止めました。電話を終えて何気なく窓の外を見ると、田んぼの向こうに比叡山が見えます。そのあたりは近年宅地化が進んできたところで、田んぼや畑と住宅が混在している地域です。
比叡山から吹き下ろしてくるのか、とても涼しい風が車の中を通り過ぎ、目の前には夏の日差しに稲の緑がかがやいています。
とっても気持ちよかったので、車の窓を全部開けてしばらく風に揺れる稲を見ていました。風が息をするのにあわせて稲の波がこちらに打ち寄せ、まるで風が見えるようです。
田んぼを渡った風が通り抜けていったとき、とても香ばしくどことなく甘い香りで車の中が満たされました。何の香りだろうと思いながら、田んぼをよーく見てみると、かがやく稲の葉の間に稲穂が、その先にはかわいらしい稲の花がたくさん咲いているのです。甘く香ばしい香りは稲の花と葉の香りだったのでしょう。
美しい稲の緑、わたってくるさわやかな風、その風が運んでくる香り…
元気に育って花をつけ、まさに実を結ぼうとしている稲。その溌剌としたいのちの輝きが感じられ、とても満ち足りた、うれしく、優しい気持ちになりました。