2月22日の京都新聞に「顔色見て学習 人間特有 京大グループ、チンパンジーと比較」という記事がありました。京都大学の明和政子教育学研究科准教授、平田聡霊長類研究所准教授たちの研究です。
「学ぶ」と「真似」ということばは語源が同じで学ぶことは真似ることから始まります。真似するためには、他者の行為を見ることが大きな役割を果たしますが、どこを見ているのか、つまり何に重点をおいて見ているのかは、他者の行為を理解し、学ぶ上で重要な部分です。
准教授たちは、アイ・トラッカーという視線の動きを計測する機械を用いて、生後8ヶ月・12ヶ月のヒト乳児と、ヒト成人、チンパンジーが、それぞれ他者の行為を見るときのスタイルを比較するという方法で、研究をしました。
ヒトとチンパンジーで他者の行為理解のスタイルが明確に異なっている点が見出されたそうです。チンパンジーが物に視線を向けていたのに対し、とくにヒトの乳児はチンパンジーに比べて長い時間、他者の顔を見ることがわかったそうです。他者の顔を見ることは、他者の心を推測する過程を反映していると考えられます。他者が何に注目しているか、どんな意図をもってものを操作しているのかといった心の状態を推し量るために、顔を見るのだろうと解釈できます。
ヒトは、操作されている物と、操作する他者の情報を統合させて、行為の目的を予測し、理解するスタイルをとるのに対し、チンパンジーはおもに物の情報、たとえば物と物との因果関係に注目して、行為を予測、理解することがこの研究によって明らかとなりました。
ヒトが他者の行為から学ぶのは、行為の表面的な部分だけではありません。他者の行為の背後にある心の状態をも推測し、予測と照らし合わせながら柔軟に判断するという深い理解にもとづくものです。これは、ヒトが複雑な社会的環境の中で生存する上で、適応的な学びのスタイルであったと考えられます。ヒトは、他者の顔色を見て、心の状態と照らし合わせながら次の展開を予測するよう発達していくといえるでしょう。と結論づけています。
ヒトの学びが、他者の行為だけでなく心も理解しようとするスタイルで行われるということは、乳児に他者の心を理解する能力があるということ。子どもを育てるということは、育てる人の心までもが伝わるということです。乳幼児を育てている私たちが決して忘れてはならないことだと思います。
*京都大学ホームページを参考にさせていただきました。
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news6/2011/120222_1.htm