園庭に大きなムクノキがあります。今のように園庭が広がる前はフェンスの外側でしたが、防災工事にともない園庭が広がったときに庭の一部となり子どもたちとの距離も近くなりました。幹のまわりは2メートル強、高さ20メートルくらい、樹齢100年以上はありそうなとても大きな木です。夏には大きく広がった枝が庭に木陰を作り、秋には黄色く色づいた葉がまるで雪が降るように舞い落ちて目を楽しませてくれます。子どもたちは落ち葉をつかって様々にあそびますし、掃き集めた落ち葉で焼きいもを作ることもあります。以前大きな幹に抱きついて木に何かを話しかけている子もいました。そんなふうにして、いつも子どもたちを近くでそっと見守り、様々なめぐみを提供してくれていましたムクノキです。
5年ほど前から、夏の葉が茂る時期に葉をつけていない枯れた枝が高いところに目立つようになってきました。枯れた枝が落ちてくると危ないと思って気をつけていましたが、ある日大きめの枯れ枝が園庭に落ちているのを見つけました。子どもが遊んでいるときに落ちてきては大変なので、いろいろと対策を考えましたが、やはり枯れてきている部分を切るしか方法はなく、樹木の管理を専門に行っていらっしゃる方にお願いして切ってもらうことにしました。といっても15メートルもある高い部分、しかも大きな枝が四方に広がっているのをどうして切るのだろうと思っていたのですが、その方は直接木に登り枝をひとつずつ切ってゆきます。しかし、ただ切り落とせばよいというものではありません。下にはお寺の山門もありますし、第一大きな枝が落ちてきたらとても危険です。
まずしっかりした枝や木の股をえらんでロープを引っかけ、そのロープの先を切り離す枝に結びつけます。そうして枝を切れば、引っかけたところを支点として枝がロープで吊り下げられるので、ロープをゆるめながらゆっくりと下ろしてゆくのです。どこにロープの支点をもってくるのか、切る枝のどこにロープを結ぶのかはとても難しく、変なところに結ぶと切った枝が落ちてしまったり大きくスイングして切った人にぶつかるかもしれません。そうなれば、命にかかわることです。作業を見ていましたが、みごとな手際です。高い木に登るだけでも怖いのに、その上で動き回りながら作業をするのですから、考えただけでも恐ろしくなります。そんなところで適切な位置にロープを結び、枝を一本ずつ切り離してゆき、枝のなくなった幹の上の部分は、落ちる方向を考えて切り落としていました。木が大きかったので作業に丸1日かかりましたが、ずっと見ていたのを覚えています。
そうして、地上から8メートルくらいのところまでを残して上の部分がなくなってしまいました。少し寂しく、木に申し訳なく思いましたが、子どもが怪我をしてからではおそいので、しかたありません。そんなふうにして大きかったムクノキは短くなってしまいました。