鞍馬街道を行き来する松明の数も増え、大人のかつぐ大松明も動き始めます。大松明は、甲斐性松明(かいしょまつ)といわれ、長さは4メートル、重さは100キログラムを超えます。中学生がかついでいた小ぶりのものでも70〜80キログラムはあるそうです。昔の人はよく肩に荷物を担いで運びましたが、今は肩に何かを担ぐ機会はあまりありません。特に中学生は普段そんな経験はほとんどしませんから、大きくて重い松明をかつぐのはずいぶん大変なようです。最初はかつぎ方がわからず四苦八苦していますが、大人にアドバイスしてもらったり、自分で工夫したりするうちに少しずつこつが飲み込めてくるのだと思います。それも自分でかつぎたいという気持ちがあってこそできるのです。また、3人くらいで松明をかつぎますが、皆の息が合わないとなかなかうまくいきません。肩に乗せる角度やその角度を得るためのそれぞれの身体の向き、先端を持つ人が上手く松明の角度を調整して、後ろの2人の負担が均等になるようにしてあげないと大変です。それぞれがこつをつかみ、その上にチームワークがあってこそ上手く行くのでしょうね。私が見ていた中学生も最初は苦労していましたが、後半になってくるとずいぶん楽にかつげるようになったようです。
鞍馬には古くから七仲間という代々受け継がれている住民組織があり、祭祀を掌握しています。この仲間に鉾があり、鉾を先頭に松明が進みんで各仲間が所定の場所で他の仲間と合流する諸礼という儀式を行った後、御神輿のある山門前に進みます。そのときには石段に燃えさかる松明が何本もたちならび、壮観です。見ている方は壮観ですが、松明を支えている方は大変です。重い松明を立てて支えているだけでもむずかしいのに、頭の上から火の粉や燃えている柴が降ってくるのですから。
立ち並ぶ松明が徐々に一カ所に集められ、大きな炎となる頃に注連が切られてお祭りは御神輿の渡御へとうつってゆきます。この御神輿が石段を下りる際に御神輿をかつぐための棒の前方に若者が足を開いてぶら下がる「チョッペン」という儀式があり、鞍馬の成人式の名残だと言われています。また、御神輿が階段を下りる際に御神輿の後ろにつけた綱を持つ綱方という役があり、女性がその役を担います。
御神輿が町中を渡御して御旅所に安置されて、この日のお祭りはフィナーレを迎えるころには日付が変わっています。
祭りの中にいると、鞍馬の人々にとって火祭りがとても特別なものであるのがよくわかります。火祭りの後に登園してきた年長の男の子は背中にやけどをしていました。「松明でやけどしたん?」ときくと、誇らしげに「うん!」と答えていました。その笑顔は、よくぞ聞いてくれたという満足と自信に満ちあふれていました。