認知症の行動症状に徘徊があり、徘徊をしてしまう人は理由もなくただうろうろしているのではない、本人には本人なりの理由があるということを書きました。ただ現実の認識が実際とは異なっていることがあるので、周囲の人にはあてもなく歩き回っているように映るのです。言い換えれば、世界の感じ方が違うと言っても良いでしょうか。
しょうがいを持っている人たちの中にも、世界の感じ方が異なる人がいるといわれます。一つのものに焦点をしぼって見ることが難しく、目に映る全てのものが同じディテールを持って見えてしまったり、音が大きく聞こえてしまったり、気温の感じ方が違ったり、その違いは様々ですが、やはり違うのです。
音が大きく聞こえてしまう人に大きな声で話してしまっては、その人には耐えられないでしょう。その人に合った声の大きさで話す必要があります。
大人と子どもでは視野が異なると言われます。6歳児の場合、垂直方向の視野は大人約120度に対して70度、水平方向は大人約150度に対して90度しかないそうです。それを体験できるメガネのようなものがあります。インターネットで「チャイルドビジョン」と検索すると、自動車メーカーなどのサイトから型紙がダウンロードできるので、それをプリントアウトして組み立てれば簡単に体験することができます。
園内研修でこどもの視野を体験しようと、みんなでこのチャイルドビジョンを付けて、目の高さが子どもと同じになるように、園内を膝立ちで歩き回ってみたら、子どもってこんなふうにしか見えないんだ!と衝撃を受けました。子どもがよくぶつかるのは納得できます。これを体験した先生たちは廊下に置いてある机は危ないと言って机をすぐに片付けていました。
みんなそれぞれに、世界の感じ方や理解の仕方が違うということを念頭に置いているかいないかで、対応が大きく異なってしまいます。視野が狭くて見えない子どもに「よく見ないからぶつかるのよ!ちゃんと見なさい!」なんて叱りつけたら、子どもは悲しい気持ちになるだけです。よく見なさい。なんて言われても見えないのですから。