大原の勝林院開創一千年慶讃法要において、一座の法要を奉修させていただきました。今回修したのは、「引声阿弥陀経」です。「いんぜいあみだきょう」と読みます。
阿弥陀経は、極楽浄土の様子を説いたお経で、良く唱えられているお経のひとつです。阿弥陀経は天台宗では漢音で読まれ、浄土宗などでは呉音で読まれることが多いようです。漢音は7、8世紀、遣唐使や留学僧らによってもたらされた唐の首都長安の発音で、呉音は漢音導入以前に日本に定着していた発音です。例えば数字の「一」は漢音では「イツ」と読み、呉音では「イチ」と読みます。お経の最初に良く出てくる「如是我聞」は漢音では「じょ し が ぶん」呉音では「にょ ぜ が もん」です。宗派によって読み方は異なりますが、普段はある程度の速さでテンポ良く読むことが多いようです。
「引声阿弥陀経」は阿弥陀経の一文字一文字に長くゆるやかな曲節(音用)がついていて、文字通り声を引くように唱えます。阿弥陀経は「如是我聞」から始まりますが、仏の唱え方で唱えると「如」の一文字を唱えるのに1秒足らずですが、引声阿弥陀経では「如」の一文字を唱えるだけでも50秒近くかかります。どれくらい長いかわかっていただけると思います。ですから、お経の全文を唱えることはできません。法要で唱えるのは「阿弥陀経」だけではなく、「四奉請」、「甲念仏」、「乙念仏」などがあり、全てに曲節(音用)がついていて、全部唱えるととても長くなるので、時間に合わせて省略することが多いのです。
天台の声明は慈覚大師円仁が中国から伝えましたが、この「引声阿弥陀経」は五台山から伝えられました。五台山は、中国山西省東北部の五台県の標高3,058mの山で東台、南台、西台、北台、中台の5つの主な峰があります。古くから文殊菩薩の聖地として信仰を集めており、たくさんのお寺があります。
「引声阿弥陀経」は魚山でも「五箇の大曲」の一つといわれる秘曲で、そのおおらかでゆったりとした旋律は慈覚大師が将来した頃の姿を残しているといわれています。
そのおおらかな旋律が堂内に響き渡り、阿弥陀仏に見守られながら声明を唱えているととても落ち着いた気持ちになりました。