私たちは、赤ちゃんに何気なく語りかけていますが、何気ない語りかけにも、赤ちゃんにとっても、私たちにとってもいろいろな意味があることがわかります。どうしても赤ちゃんを見ると、高い声で、抑揚豊かに、はっきりとした母音を使って話します。もちろん、そういう話し方をした方が、赤ちゃんが話している人に注目する割合は高くなります。なにも意識してそうしているわけではないのに、そうなってしまいます。赤ちゃんを目の前にするとそういうスイッチが入るのでしょうか。もしそうなら、きっと赤ちゃんがそのスイッチをONにしているのだと思います。この赤ちゃんに話しかけるときの特徴は、様々な言語で共通していいるそうです。
しかし、日本語には一つの特徴があるそうです。それは育児語と呼ばれるものです。「わんわん」「あんよ」「くっく」「ぶーぶ」といった特殊なことばを赤ちゃんに対して使います。この3拍もしくは4拍のことばが文中に入ることで、文全体が特殊なリズムを持った文になります。このことが赤ちゃんの発語に関係するのです。育児語には、連続した音の中から、単語を切り出しやすくする役割があるそうです。
まったく聞いたこともない言語で誰かが話しているのを聞いているところを想像してみてください。ただ音が連続しているとしか聞こえないし、どこからどこまでが一つの単語かなんてわかりっこありません。赤ちゃんもことばを覚える前は、似たような状況にいるのではないでしょうか。その川のように流れる音の中から、単語を見つけてすくい上げるのは至難の業だと思います。その助けとなるのが育児後なのです。「わんわん」という繰り返しや、「くっく」のようにまん中につまった音が入っていることば、「あんよ」のように「ん」の音がまん中に入っているもの、そして長音を伴うものがあります。これら特殊なリズムを持ったことばを使うことで、赤ちゃんが連続した音の中から単語を単語として認識しやすくなるのだそうです。
また、「うさちゃん」のように「〜ちゃん」という接尾語をつけること、「おかし」「おもち」のように「お」という接頭語をつけることも同じように単語を抽出するのに役立っているそうです。
大人は赤ちゃんと接するときに、乳児語や育児語を使います。赤ちゃんは乳児語や育児語を好んで反応するという相互作用が、言語の発達には必要なようです。相互作用と言えば、赤ちゃんが音声を発したときに、タイミング良く、話しかける、ほほえむ、身体に触れるなどの応答をしてあげると、声を出すことが多くなったり、ことばを話すような発声が増えたりするそうです。
このように大人の適切な語りかけが、赤ちゃんのことばの発達をうながすのです。
人はことばを使って複雑なコミュニケーションをとります。ことばは、お互いにより良い社会を築いてゆくために獲得したツールなのだろう。そんなことが頭に浮かんできました。
NTTコミュニケーション科学基礎研究所人間情報研究部 麦谷 綾子先生の講義は、専門知識がない私にもわかりやすく、とても興味深いものでした。このような機会に巡り会えたことを感謝しています。麦谷先生とこの機会を設けてくださった保育環境研究所ギビングツリーの皆様にお礼申し上げます。
ここに示したのは講義を聞いた私の感想であって、私の聞き間違いや、理解不足による誤りがあるかもしれません。ご容赦ください。