赤ちゃんはどのようにして、ことばを獲得してゆくのか。麦谷 綾子先生の講義を聴かせていただいた感想を書かせていただいていますが、私の聞き間違いや理解不足のために不正確な部分があるのは私の間違いです。ご容赦ください。
赤ちゃんはおかあさんのお腹の中で、しっかりと音を聞いている。昼ドラの主題歌をも聞いているというのには、驚きました。聞くだけではなく、泣き声にも違いがあるそうです。ドイツ語を母語とする新生児とフランス語を母語とする新生児の泣き声を比べてみると、泣き声の高さと強さの変化の特徴は、それぞれの母語の音声特徴に似ているそうです。ドイツ人の赤ちゃんはドイツ語っぽい泣き方をして、フランス人の赤ちゃんはフランス語っぽい泣き方をすると言うことなのです。これらのことから、新生児には基本的な聴覚機能と、ことばを学習する能力が備わっていると言うことがわかります。
では、赤ちゃんは生まれてからどのように言語機能を発達させてゆくのでしょうか。その一つは、母語の音声体系に最適化する過程だといえそうです。母語の音声体系に最適化されてゆくのはいつ頃かを調べた実験があります。英語の “L” の音と “R” の音は私たち日本語を母語とする人にとって聞き分けるのが難しい音の一つです。英語を勉強して。ここで躓く人は多いのではないでしょうか。この英語の “L” と “R” を聞き分けるようになる時期を調べたのです。
それはこんな実験です。赤ちゃんに la la la la la la・・・というLの音を聞かせます。それが突然 ra ra ra ra ra・・・と言う音に変わります。その瞬間に、マジックミラーの奥に隠された人形達にライトが当たり、人形が動き出します。すると赤ちゃんはそちらを振り向きます。このことを何度か経験したあと、ある程度慣れて来たら、“ra” の音が聞こえてから人形が光り出すまでのタイミングを少し遅らせます。赤ちゃんが “la” と “ra” を聞き分けていたら、人形に光が当たり動き出す前にそちらの方を見るという実験です。
この実験を英語が母語であるアメリカ人の赤ちゃんと、日本語が母語の日本人の赤ちゃんで比較してみます。そうすると生後6カ月〜8カ月の赤ちゃんでは、アメリカ人の赤ちゃんも日本人の赤ちゃんも同じように “L” と “R” を聞き分けていることがわかりました。それが生後10カ月〜12カ月の赤ちゃんでは、アメリカ人の赤ちゃんはLとRを聞き分ける率が上がりますが、日本人の赤ちゃんは聞き分ける率が下がってきて差ができます。ということは、生後6カ月から10カ月の間に赤ちゃんが母語に含まれる音を聞くことに最適化されてゆくことを示しているという意味です。
ちょうどこの講義を聞く少し前にNHKのスーパープレゼンテーション 必見!赤ちゃんの脳は外国語をどう学ぶ?という番組の録画を見ていたら、赤ちゃんの脳の発達と言語習得の関係を研究するパトリシア・クール博士のプレゼンテーションで同じ実験が紹介されていたので、すぐに実験の意味が理解できました。
それにしても、生後6カ月から12カ月という短い期間に赤ちゃんは、自分の母語を聞く力をつけるというのは驚きです。こういうと少し不正確です。生まれたての赤ちゃんは、どの言語の音でも聞き分ける能力を持っているのです。それが、成長するにつれて、自分が生きてゆくのに必要のない部分を切り捨てて、自分の生活環境に最適な能力を伸ばしてゆく、「刈り込み」ということが行われているのです。