赤ちゃんがどうことばを獲得してゆくかについて興味深いお話を伺うことができました。講師は、NTTコミュニケーション科学基礎研究所人間情報研究部 麦谷 綾子先生です。NTTコミュニケーション科学基礎研究所は、「情報」と「人間」を結ぶ新しい技術基盤の構築に向けて、情報科学と人間科学の両面からこの問題に取り組んでいる研究機関で、先生は人間情報研究部で、乳幼児の母語音声システムの構築・獲得過程を研究していらっしゃいます。
今回は「ことばのはじまり」というテーマでお話ししてくださいました。言語は人間だけが持っている高度な認知機能ですが、それを生まれてからわずか数年で自由に操ることができるようになります。これを機械で再現しようとするとかなり大変なことになるそうです。また、チンパンジーにことばを覚えさせようという実験は何度か行われていますが、食べ物が欲しい。飲み物が欲しいといったことを表すことはできますが、やりとりをするような高度な言語の使い方はできないそうです。人間は共感する能力があるから、言語を操ってコミュニケーションすることができるのだそうです。
また、大人になると言語獲得が難しくなることは、英語をはじめとする外国語を学ぶのに苦労することでもわかります。赤ちゃんの時期はことばを獲得するのに最適な時期なのだそうです。
ことばのはじまりについて、先生は論点を3つに整理して話してくださいました。1.ことばの獲得のはじまりについて 2.母語の音を聞き分ける能力の発達について 3.語りかけについて です。
赤ちゃんはお母さんのお腹の中にいるときから、五感を働かせて主体的に生きていることが赤ちゃん学研究の発達によってわかってきました。その中で聴覚は28週くらいまでには発達し、赤ちゃんはおなかのなかで様々な音を聞いていますが、内耳機能の発達が途上なのと、胎内では高い音が伝わりにくいので、母音や低い周波数の音を比較的多く聞いているようです。赤ちゃんが生まれてからどんな音を好んで聞くのか、どんな音に注意を払うのかという実験があります。その方法は前にも紹介した吸てつ法という赤ちゃんがおしゃぶりを吸う力や回数を計ることによって計る方法です。あかちゃんがおしゃぶりをくわえて、ヘッドホンで音を聞かせます。赤ちゃんが興味を持っている音が聞こえてくると、強くおしゃぶりを吸うという反応を使って調べたそうです。
その結果は、外国語と母語では母語を、母親の声と母親以外の女性の声では母親の声を選好したそうです。ある程度予想できそうな結果ですが、胎内で聴いたおはなしとそれ以外のおはなしでは胎内で聞いたものを、胎内で聴いた子守歌とそうでない子守歌では胎内で聴いた子守歌を選好したというのです。物語や子守歌まで聞き分けているのです。ちなみに妊娠中にソープオペラと呼ばれる昼ドラを見ていたおかあさんたちと、そうでないお母さんとに分かれ、それぞれの赤ちゃんがソープオペラの主題歌を選好するかどうかを調べた実権では、ソープオペラを見ていたお母さんの赤ちゃん達は、ドラマの主題歌を選好したそうです。
赤ちゃんは聞いているのです。