構成論的発達科学には当事者研究というカテゴリーがあります。障害があると言われる人の体験などの記述によって、障害者の立場から障害を理解しようというのだと思います。
例えば、自閉症は社会性の障害とか、心の理論の障害が共通しているのではないかということがよくいわれます。ところが、自閉症の人たちのコミュニティーがあって、互いにコミュニケーションをとり、共に活動していらっしゃいます。このことは社会性を表しているのではないか。こう考えると「社会性の障害」という言い方は、自閉症の特徴を本質的に言い表しているわけではないように思えます。社会性に先立つ身体感覚の多様性に注目すべきだ。同じ身体感覚を持つ人たちのオルタナティブな社会もある。と演者はおっしゃっていました。
その人のいろいろなことの感じ方や身体感覚にそれぞれの特徴があるということです。そういえば、自閉症の人の中には音にとても敏感で音が大きく聞こえてしまうので、少し大きな音がすると、とても我慢できなくなって耳を押さえてしまう。とか、私たちは、何かを見るときには注意を向けたいものだけに集中して見て、その他のものには余り注意を向けないようにして見ているのですが、自閉症の人の中には視界に入る全てのものが、同じ質感で見えてしまう人もいるそうです。以前、自閉症の人が書いた手記を読んでいたときに、「みんなどうして南の島なんかに行きたがるのか理解できない」とありました。その方は暑さに敏感で、より暑さを感じてしまうのです。このように、まずひとり一人が持つ様々な身体感覚の違いを認識する必要がありそうです。
私たちはどうしても自分の見方、感じ方と同じように他の人も見たり聞いたり感じたりしていると思いがちです。その見え方、聞こえ方、感じ方が人によって異なり、その違いが小さい人もいれば大きい人もいるのです。
ただそれを当事者の特質とするだけでなく、それを理解してどう支援するのか。何が当事者のハピネスやウエルビーイングに繋がるのか。その視点が大切なのではないのでしょうか。