日本に仏教の戒律を伝えた高僧、鑑真和上(688-763)は教科書にも取り上げられていて、ほとんどの人が知っていると思います。特に、11年にわたって渡航に挑戦しては失敗し、ようやく6回目で日本にたどり着かれたことはあまりにも有名です。そして、鑑真和上は東大寺での授戒に力を尽くした後、唐招提寺を創建されたこともよく知られています。
今年は、鑑真和上が遷化されてから1,250年にあたり、唐招提寺では、鑑真和上一二五〇年御諱が厳修されています。この1250年の記念事業として、国宝鑑真和上座像のお身代わり像を本像と同じ脱活乾漆技法で製作され、先日、開眼法要が営まれました。
開眼法要の行われた6月5日はとても良いお天気で、気温もずいぶん高くなりました。雅楽の調べが流れる中、僧侶と共に輿に乗ったお身代わり像が開眼法要の会場である講堂に運ばれ、石田智圓 唐招提寺長老が、大きな筆でお像の目をなぞるようにして開眼の儀が行われました。開眼の儀に用いられた大きな筆には、結縁縷と呼ばれる綱が繋がっていて、約1,000人の参列者全員がその綱を握ることで、一緒に開眼に参加しました。動作としてはただ綱を握っているだけなのですが、心はお身代わり像に繋がっている気がしました。
まぶしい光の中、五色の幕が風になびき、ときおり風が運んでくるお香の香りに包まれて、読経の声や舞楽の調べを聞いていると、心がとても落ち着き、なぜか天平の時代にタイムスリップしたような気持ちになりました。すばらしい機会に結縁できてとても嬉しく思いました。