私たちの身体には様々な微生物がいて、身体の各部分ごとに細菌叢(マイクロバイオーム)をつくっています。鼻の中には2,264種類、舌には7,947種類、大腸に至っては33,627種類もの細菌がいるのだそうです。
こうした常在菌の大半は食物の消化や吸収をたすける、人間の遺伝子には作れない必須ビタミンや抗炎症タンパク質をつくる、免疫系を強化する、また皮膚の常在菌は天然の保湿成分を分泌して、病原菌の侵入を防ぐ、など人体にとって有益な働きをするか、無害なものがほとんどです。いわゆる善玉菌です。
こうした善玉菌を最初にもらうのは、赤ちゃんが産道を通過するときだそうです。母乳を消化するのに必要な乳酸菌は普段はお母さんの腸内にいるのですが、出産の時には産道に増えるのです。そうして赤ちゃんが生まれてくるときにその乳酸菌をもらって、母乳を消化する準備を整えると考えられています。
細菌というとどうしても「有害」というイメージが強く、今の世の中には消毒、殺菌、除菌、と言うことばが溢れていますが、どうもそれだけではないような気がします。
抗生物質の発見は医学の進歩に大きく寄与し、多くの人の命を救ってきましたが、細菌叢の研究が進むと共に、抗生物質は標的とする悪玉菌を倒す際に善玉菌をも巻き添えにしてしまうということもわかってきていて、幼いうちに抗生物質を多用すると長期的に深刻な影響が生じる恐れがあるとする研究もあるようです。
もちろん、常在菌には善玉菌だけではなく人間に害を及ぼす悪玉菌もいます。食中毒を引き起こしたり、時にはスーパー耐性菌に変身したりして生命の危機を招くこともある黄色ブドウ球菌はヒトの鼻の中や皮膚にいる常在菌です。鼻の中の細菌叢という共同体のなかでは他の菌とのバランス関係でおとなしくしているようですが、共同体を離れると凶暴化することがあります。
異なるものが、それぞれの働き、役割をうまくを全うすることができる環境。お互いにバランスを取り合って共に生きる事ができる調和が大切なのかもしれません。最近は細菌叢を立て直すことで、病気を治そうとする治療方法も研究されているそうです。細菌叢という場の調和を取り戻すことを治療につなげると言うことなのだと思います。
以下、ネイサン・ウルフ氏の記事を引用します。
細菌を人生の道連れとして思いやり、人間の役に立つよう管理するという考え方は、細菌を目の敵にし、はびこる前に追い詰めて根絶しようという私の日頃の研究姿勢とはかけ離れている。しかしどちらも正しいと言えよう。感染症の病原菌に対しては警戒を怠ってはならない。だが、その世界を探求していくにつれ、目に見えない存在に対する恐怖は、尊敬の念と共に薄らいでいくだろう。今後どのような発見があるか、大いに楽しみだ。(ナショナルジオグラフィック2013年1月号153ページ)
と記事は結ばれています。全くその通りだと思います。
見えないものに興味を持っていたら、本当にウィルスがやってきて、インフルエンザにかかってしまいました。しばらくお休みです。
みなさん、ごめんなさい。