私たちは視覚を使って様々なものを見ますが、実は顔を見ることは他のものを見ることでは、情報処理のしくみがずいぶん違うようです。普通、目から入った情報は主に脳の視覚野というところで処理されるのですが、顔の情報は脳の紡錘状回という部分で処理し、上側頭溝という部分で他者の視線に関する情報を処理しているといわれています。自閉症の人の中には紡錘状回の反応が弱い人がいるそうです。表情が読むのが苦手といわれるのはこんなところにも原因があるのかもしれません。
それにしても、私たち人間にとって顔を見ることは、他のものを見ることとはずいぶんと意味合いが違うようです。それは、社会を構成するためには他者の顔や表情を手がかりとして、他者の心を読む必要があったからではないでしょうか。社会のなかで生きてゆくために必要な能力は、私たちのあらゆるところに備わっているのです。そして赤ちゃんはそれらを自ら発達させるようになっているのです。私たち保育者には、赤ちゃんが思う存分発達できるような環境を整え、見守る義務があるのです。
顔情報の脳での処理方法は他の物を見たときと異なるということは、もともとそうなのでしょうか。それとも赤ちゃんのうちから顔を見ることが多いので、学習効果によってそうなるのでしょうか。そんなことを実験した人がいるそうです。結果は顔以外のものでも、集中的に学習すれば、顔を認識するのとおなじ脳の部分が活動するそうです。
実験は、似ているけれども少しずつ形の違う、顔には見えない形の4種類の人工物を使い、ひとつずつに名前をつけて、名前と形を覚えるようにします。そうして名前をつけて覚えたものを見たときは、顔を認識するのと同じような認識の仕方をするそうです。ブリーダーが自分の育てている動物を見たり、バードウォッチャーが鳥を見るようなときも同じです。ここでは、名前をつけるなど愛情、愛着を持って関わることがポイントだそうです。人間でなくても、生き物でなくても、愛情を持って接するものについては、脳は顔と同じような認識の仕方をするのです。