「人間は他の動物と異なり、弱くなることで生き延びてきた。」という話しを聞いたことがあります。確かに狩りをするために鋭い爪や牙、速い足を持つという進化を遂げた肉食動物たちは強くなることで生き延びてきました。また、それらの肉食動物から逃れるために様々な術を持つという進化を遂げた他の動物たちも逃げるという能力をつけ、強くなることで生き延びてきたといえると思います。
園の近くにはよく野生の鹿が姿を見せますが、雨が降っていても、雪が降っていても、暑い夏の日も山の中をうろうろしています。そんな鹿を見ると、「寒くないのかな。よく耐えられるな。鹿と同じ条件で山の中に放り出されたら、私はとても生きてゆけないだろうな。」と思ってしまいます。そう思うと人間はとても弱いです。それなのに、どうして生き延びてこられたのでしょう。
その答えは、社会を形成したからだそうです。個々は弱くても社会を形成し、役割を分担し、守り合うことで生き延びてきたというのです。そして、その社会の中で最も中心にいるべきなのが、最も弱い存在、あかちゃんや子ども、高齢者やしょうがい者です。弱いからこそまん中で守られる必要があるのです。一番弱い人をまんなかに、その人たちのことを中心に考えることが社会の姿なのです。最も弱いあかちゃんを育てるという行為は人間が社会を作ってゆくために有効な手段なのです。そう思って今の社会を見てみると、少し心配になります。
子どもにも社会が必要です。というより、こどもも社会の一員なのです。だからこそ子どものうちに社会を経験しておく必要があるのです。昔は地域に子ども集団がありました。ガキ大将がいて、年長の子から小さい子までが群れて遊んでいました。そんな中で子どもたちは社会を経験してきたのです。その集団が同年齢ということはめったにありません。様々な年齢の子が集団を形成していて、大きな子が小さな子を守ったり、近い年齢同士での関わりなど様々な立場を経験していたのでしょう。ところが最近は地域で子どもが群れて遊んでいる姿を見ることが少なくなりました。だからこそ、たくさんの子どもが関わり、社会を形成する場が必要になるのです。それが幼稚園や保育園の役割なのです。そう考えると、異年齢の集団が一番自然なのではないでしょうか。4月から翌年の3月生まれの子どもしかいない集団は不自然です。
当園では基本的に異年齢で過ごしています。一番自然なかたちは0歳から6歳までが一緒に過ごすことなのでしょうが、今はそれは不可能なので、0歳1歳2歳と3歳4歳5歳という異年齢の集団で過ごしています。
「人間が社会を形成することで生き延びてきた」とするなら、子どもたちが子どもの社会を形成する経験をせずに、大きくなったときにちゃんと社会を形成できるのでしょうか。心配です。