ことばの獲得について書きましたが、わかりにくいのでもう一度整理しようと思います。人はどうやってことばを獲得するのかということに対して、言語学者のノーム・チョムスキーの唱えた説は、人は生まれながらにして言語獲得装置と呼べる能力を持っていて、子どもがことば(言語データ)に接すると、ここが働いて、母語を獲得することができる。そして、が言語獲得装置には普遍文法と呼ばれる、すべての言語に共通した規則体系をもっているので、あらゆる言語を獲得することができるというものです。
言語データという刺激を得られれば、人は言語を獲得できる能力を持っているということです。
これに対して、その子自身に内在する能力に、周囲からの様々な働きかけ(教育的働きかけ)があってはじめて、ことばが発達するのだという説があります。つまり、生得的な能力だけではなく発達してゆく過程での周囲の環境が言語の獲得には必要だという立場です。
ルーマニアではチャウシェスク政権による人口増加政によりたくさんの子どもが生まれましたが、貧困のため多くの子どもが劣悪な環境の孤児院で、ただ機械的に授乳をされる状態で過ごさざるを得ない状況にあったそうです。政権崩壊後、そうした孤児たちのために。里親に預けられるなどの様々な救済策が取られました。
この時に行われた調査では、生後15ヶ月くらいまでに孤児院から里親に引き取られた子どもたちは、2歳くらいにはことばの発達の遅れは見られなくなりましたが、2歳以降に里親に預けられた子には、ことばの発達に遅れが見られるケースが多かったようです。
もし、言語の獲得が生得的な能力にだけよるものであれば、この差は生まれてこないことになります。
このような研究から、ことばの獲得に果たす生育環境の影響が大きいという説が有力になっているそうです。
ことばは人との関わりのなかで生まれてくるものなので、あらゆる感覚が統合されることで育つ。ことばの発達にも環境が大きく関わってくるのです。