味噌でも醤油でも、麹が重要な役割を果たしています。麹は日本麹カビ(アスペルギルス・オリゼ)というカビの一種です。もちろん麹カビは自然界にも生息していますが、何百年も前から人間と共に暮らしていている麹はずっと培養されてきているのです。
NHKスペシャル「和食 千年の味のミステリー」では京都の東山に種麹(麹の胞子)を商う店を紹介していました。種麹屋とも、もやし屋とも呼ばれるそうです。この種麹屋さんは全国で10軒あまりしかなく、その麹で全国の味噌や醤油がつくられているのだそうです。恥ずかしながら、そういうお店があることも、そのうちの一軒が京都にあることも知りませんでした。種麹屋は800年も前からあるそうです。麴カビが繁殖してくると、新緑が萌え出るようになるので「もやし」といわれるそうです。種麹屋で大元になる菌を触ることができるのは店の主だけなのだそうです。代々受け継がれてきた麹菌を守り育てているですね。
麹菌にはほかのカビにはない優れた力があるそうです。それは、一つの細胞の中に核がたくさんあるのだと言います。普通、核は1つの細胞に1つだけだと思っていた私には驚きです。一つの核がなにかの理由でダメージを受けても、他の核があるので性質を受け継いでゆけるといいます。
空気中には、様々なカビの胞子が飛び交っています。どうして麹カビだけをより分けることができたのでしょうか。それは木灰なのだそうです。様々なカビが活発に活動する梅雨時、炊いたごはんを2つのお茶碗に盛りつけて置いておきます。一方には木灰をふりかけもう一方は何もしないままです。2日ほど置くと両方にカビが生えますが、木灰を振りかけた方は、麹カビだけが繁殖して薄緑色に、何もしない方は様々なカビが繁殖していろいろな色になるそうです。アルカリ性の灰がついたごはんに繁殖できるのはアルカリ性に強い麴カビだけなのです。椿の灰はアルカリ性が強くて他のカビを寄せ付けない効果が高いのです。
昔は普段の生活の中にあったそんな灰を使って、うまく麴カビを選び取っていたのです。番組の中では「先祖は木灰を使ってカビを手なずけた。」ということばが使われていました。言い換えれば、自然の中で自然に寄り添って自然に生活することで、自然の摂理を感じ取り、その力を借りて自然と一体になって暮らしていたのだと思います。今のように便利ではなかったかもしれませんが、自然を感じ取る能力は高かったのではないでしょうか。そこには、自然と共に生きる(そう生きざるをえないのですが…)知恵があり、それを使ってカビをてなずけたのでしょう。人間に都合が悪いからと言って、殺したり排除したりするばかりではなく、共に生き、てなずけることで、有用なものを選び取ったり、悪いものもが良いものに変わったりするかもしれません。