2013年 9月

ことばをまなぶ 5

2013/09/04

音声知覚が母語に最適化される生後6〜8カ月から10〜12カ月までに、母語以外のことばを体験すると、そのことばに特有の音も聞き分けられるようになる。という実験結果があります。お父さんが英語を話し、お母さんが日本語を話すといったバイリンガルの人たちは、2つの言語の音を聞き分けることができるようになります。しかし、単純に複数の言語が同じように使えるようになるという訳ではなさそうです。お父さんと話すときは英語で、お母さんと話すときは日本語というように、場面によって使い分けたりすることもあるでしょう。二つの言語の間を行ったり来たりしながら話さなければならないので、バイリンガルの人はバイリンガルの人の苦労があるのだと思います。子どもの時にどちらかだけを使おうとする事もあるそうです。

バイリンガルの人は、ものごとを考えるときにはどちらの言語を使うのでしょうか。その時の状況によるのでしょうか。その時々で自然に選んで考えているのでしょうか。英語と日本語であれば、英語を話す人と話すときは英語で考え、日本語で話すときは日本語で考えているのかもしれません。話す相手がいなくて、ひとりで思索にふけるときなどはどうするのでよう。

いずれにしても二つの言語を行ったり来たりするのには、それなりのエネルギーが必要なのだと思います。

バイリンガルの子に育てるには決して親が教えようとしてはいけない。一緒に学んだり、一緒にことばを使って楽しんだりするなかで、自然に身につけてゆくのが良いといったことを聞きます。

赤ちゃんの時に、2つの言語を聞き分ける能力を持ったとしても、その後2つの言語を使おう、使いたいという意欲が本人になくては、使えるようにはならないのだと思います。
以上は全く私の思ったことなので、学術的な裏付けがあるわけではありません。

麦谷博士の講義の最後にこんな質問が寄せられました。「赤ちゃんの時に言語の知覚が母語に最適化されるなら、大人が英語を聞き流すだけで英語が上達するということはないのですか?」それに対して、麦谷博士は、第2言語を学習する場合は、本人の意欲が一番重要な要素であり、いろいろな教材があるが、どの教材を使っても本人の学ぼうとする意欲が低ければ習得は難しいし、意欲が高ければ習得できる。といった意味のことを答えていらっしゃったように思います。

語学に限らず、どんなことに対しても、この意欲というのが大切なのではないでしょうか。子どもに無理矢理やらせると、そのときは渋々やっても、やらせないとやらなくなります。やりたい、やってみたいという意欲を喚起することが、子どもが自らそのことに取り組むことに繋がるのです。まさに子ども主体、それが大切なのだと思います。

スイカ割り

2013/09/03

8月の中頃のことです。

猛暑が続く中、園庭で夏の風物詩であるスイカ割りをしました。

0歳児~5歳児まで全クラス園庭に集合していました。

スイカ割りをする子どもは目隠しをしてやります。

見ている子どももドキドキ。目隠しをしている子どももドキドキ。

「もっと向こう。もっとこっち。」とワイワイがやがや。

大きな大きなスイカはなかなか割れません。

また割れない・・・・・また割れない・・・・・また・・・・・

最後は職員!   さあ、割れるでしょうか?

ドキドキ。緊張の一瞬。   エイッ!!

お見事!!ど真ん中に命中!!

スイカ割りを楽しんだ後の美味しいスイカを食べている子ども達の笑顔が素敵でした。

ことばをまなぶ 4

2013/09/03

赤ちゃんは、生後6カ月から8カ月くらいまでなら様々な言語の音を聞き分ける力を持っているのに、1歳頃には母語を聞くことに特化してくるので、母語にない音は聞き分けることが難しくなってくる。そんなことを聞くと、「早いうちに赤ちゃんに英語を聞かせなくては!」なんて思う方がいらっしやるのではないでしょうか。パトリシア・クール博士の実験でも、アメリカ人の赤ちゃんに中国語を聞く機会を与えたら、中国語に特有の音も聞くことができるようになったという結果が出ました。ただしそれは、生身の人間が対面して話したときにのみ有効だということもわかりました。

NTTコミュニケーション科学基礎研究所人間情報研究部 麦谷 綾子 博士は「もったいない?」と表していらっしゃいました。「外国語を学習するのに、この時期を逃すのはもったいない。と思っていませんか。」ということなのだと思います。せっかく、あらゆる言語の音を聞き分ける力を持っているのに、その時期にいろいろな言語に触れる機会がないのはもったいないと考えるのも無理はないかもしれません。

ところが、麦谷博士はこんなデータを示してくださいました。生後7カ月の時に、英語の “L” と “R” の音を聞き分けていたグループと、聞き分けられなかったグループの2グループを2歳半まで追跡調査し、母語の語彙数を調べたところ、“L” と “R”を聞き分けられなかったグループの子どもたちの方が聞き分けた子どもたちのグループに比べて母語の語彙数が多かったそうです。

つまり、7カ月の時点で英語の “L” と “R” が聞き分けられなかったグループの赤ちゃん達は、その時点で聞き分けられたグループの赤ちゃんよりも母語に対する最適化が進んでいたということです。最適化とは母語に適した音の聞き取りがよりできるようになるということですが、英語を聞き分けられなかったグループはその時点で、より母語に適した音の聞き取りができていた。だから、母語のことばの発達が早く、2歳半の時点での語彙数が増えていたということです。

だから、この時期に無理に英語を聞かせることが、絶対に良いとは言い切れないのです。

赤ちゃんは生まれたときには、母語に依存しない音声知覚を持っていて、生後6カ月ごろから知覚の最適化がはじまり、1歳くらいまでに母語に適した音声知覚に変わってゆくということが言えます。

赤ちゃんはあらゆる能力を持っていて、時を経るにつれて自分が生活する環境にあわせて不必要な部分をそぎ落としてゆく、それが発達なのですね。だからこそ、まわりの環境が大切なのだと思います。無味乾燥で殺風景な部屋で過ごせば、五感を刺激するものが少ないので、五感で感じるという発達が限定されてしまいます。あらゆる場所と機会を捉えて、五感を刺激する環境を用意しておく必要があると思うのです。そうすれば、子どもが自らその環境に関わり、豊かに発達してゆくのです。

ことばをまなぶ 3

2013/09/02

NHKの番組、スーパープレゼンテーション 必見!赤ちゃんの脳は外国語をどう学ぶ?で取り上げられていた、ワシントン大学学習脳科学研究所所長パトリシア・クール博士の“The linguistic genius of babies”というプレゼンテーションがあります。言語習得を中心とした子どもたちの学習能力の研究から、赤ちゃんの言語習得についての研究成果をわかりやすく伝えてくださっています。

赤ちゃんは、どんな言語でも聞き取ることができる「世界人」ですが、大人は聞き取ることができません。では、いつ「世界人」ではなくなるのでしょうか。それは1歳になる前です。とクール博士はおっしゃっています。前回紹介した “L” と “R” を聞き分ける実験などの結果からそれがわかるのです。生後6カ月〜8カ月くらいだとアメリカの赤ちゃんも日本の赤ちゃんも “L” と “R” を聞き分ける能力に差がないのに10カ月〜12カ月になるとアメリカの赤ちゃんは “L” と “R” の聞き分けがより良くできるようになっているのに対して、日本の赤ちゃんは聞き分けができなくなってきているという実験結果は、赤ちゃんが母語習得への準備を始めているということです。

この2カ月の間に赤ちゃんには一生懸命にことばを聞いて脳内で統計を取っているそうです。英語で赤ちゃんに語りかけるアメリカ人のことばには“L” や “R” の音がたくさん出現しますが、日本語を話す日本人のことばには日本語独特の “L” と “R” の中間の音、日本語独特の “R 音”が多く出現します。これを聞いて赤ちゃんは脳内で統計を取り、その統計が赤ちゃんの脳を変化させて、「世界人」ではなくなるのです。

では、バイリンガルの環境ではどうなのでしょうか。この月齢のアメリカ人の赤ちゃんに、中国語を聞かせる機会を与えた実験では、中国語特有の音も聞き分けられるようになったそうです。

しかし、ここには重要な要素があります。それは、中国語を話す人が直接、赤ちゃんに話しかける必要があるのです。音声だけで中国語を聞かせる、もしくは映像メディアを通して話しかけた赤ちゃんは中国語を聞き分けるようにはならなかったそうです。生身の人間が直接話しかけたときにだけ、聞き分ける事ができたのです。パトリシア・クール博士は、これは社会脳が赤ちゃんに統計を取らせるからだとおっしゃっていました。

赤ちゃんが、言語を習得するのは、自分が所属する社会でより良く生きてゆくためなのです。その社会は生身の人と人の関わりということです。決してぬいぐるみとの関わりでもないし、モニターを通した関わりではないのです。この話を聞いて赤ちゃんは「社会を構成する」という目的のために、自分の所属する社会の環境に最適化できるように、できているのだと思いました。母語に最適化するのは、自分の所属する社会により最適化するということなのです。ですから、生身の人間と対面したときにのみ、脳が統計を取ったのです。

社会には、多様な人がいますし、多様な人と関わってより良く生きることが必要になってきます。ある年の4月2日生まれから翌年の4月1日生まれの人だけが集まる社会というのは、日本の学校に限られた非常に特異な集団です。学校を卒業して社会に出れば、様々な年齢の人と関わりあって生きてゆかなくてはなりませんし、それが自然なことです。だからこそ、乳幼児期には、異年齢のいろいろな人と関わる事のできる環境を用意しておかなくてはならないと思いました。

ことばをまなぶ 2

2013/09/01

赤ちゃんはどのようにして、ことばを獲得してゆくのか。麦谷 綾子先生の講義を聴かせていただいた感想を書かせていただいていますが、私の聞き間違いや理解不足のために不正確な部分があるのは私の間違いです。ご容赦ください。

赤ちゃんはおかあさんのお腹の中で、しっかりと音を聞いている。昼ドラの主題歌をも聞いているというのには、驚きました。聞くだけではなく、泣き声にも違いがあるそうです。ドイツ語を母語とする新生児とフランス語を母語とする新生児の泣き声を比べてみると、泣き声の高さと強さの変化の特徴は、それぞれの母語の音声特徴に似ているそうです。ドイツ人の赤ちゃんはドイツ語っぽい泣き方をして、フランス人の赤ちゃんはフランス語っぽい泣き方をすると言うことなのです。これらのことから、新生児には基本的な聴覚機能と、ことばを学習する能力が備わっていると言うことがわかります。

では、赤ちゃんは生まれてからどのように言語機能を発達させてゆくのでしょうか。その一つは、母語の音声体系に最適化する過程だといえそうです。母語の音声体系に最適化されてゆくのはいつ頃かを調べた実験があります。英語の “L” の音と “R” の音は私たち日本語を母語とする人にとって聞き分けるのが難しい音の一つです。英語を勉強して。ここで躓く人は多いのではないでしょうか。この英語の “L” と “R” を聞き分けるようになる時期を調べたのです。

それはこんな実験です。赤ちゃんに la la la la la la・・・というLの音を聞かせます。それが突然 ra ra ra ra ra・・・と言う音に変わります。その瞬間に、マジックミラーの奥に隠された人形達にライトが当たり、人形が動き出します。すると赤ちゃんはそちらを振り向きます。このことを何度か経験したあと、ある程度慣れて来たら、“ra” の音が聞こえてから人形が光り出すまでのタイミングを少し遅らせます。赤ちゃんが “la” と “ra” を聞き分けていたら、人形に光が当たり動き出す前にそちらの方を見るという実験です。

この実験を英語が母語であるアメリカ人の赤ちゃんと、日本語が母語の日本人の赤ちゃんで比較してみます。そうすると生後6カ月〜8カ月の赤ちゃんでは、アメリカ人の赤ちゃんも日本人の赤ちゃんも同じように “L” と “R” を聞き分けていることがわかりました。それが生後10カ月〜12カ月の赤ちゃんでは、アメリカ人の赤ちゃんはLとRを聞き分ける率が上がりますが、日本人の赤ちゃんは聞き分ける率が下がってきて差ができます。ということは、生後6カ月から10カ月の間に赤ちゃんが母語に含まれる音を聞くことに最適化されてゆくことを示しているという意味です。

ちょうどこの講義を聞く少し前にNHKのスーパープレゼンテーション 必見!赤ちゃんの脳は外国語をどう学ぶ?という番組の録画を見ていたら、赤ちゃんの脳の発達と言語習得の関係を研究するパトリシア・クール博士のプレゼンテーションで同じ実験が紹介されていたので、すぐに実験の意味が理解できました。

それにしても、生後6カ月から12カ月という短い期間に赤ちゃんは、自分の母語を聞く力をつけるというのは驚きです。こういうと少し不正確です。生まれたての赤ちゃんは、どの言語の音でも聞き分ける能力を持っているのです。それが、成長するにつれて、自分が生きてゆくのに必要のない部分を切り捨てて、自分の生活環境に最適な能力を伸ばしてゆく、「刈り込み」ということが行われているのです。

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