園長ブログ

ことばをまなぶ 6

2013/09/05

母語の音を聞き分ける能力の発達する、母語に最適化するということを赤ちゃんが行っているということを知りました。人間だけが使うことのできる言語というツールを獲得してゆく過程を知ることはとてもエキサイティングです。

しかし、赤ちゃんはひとりで発達してゆくわけではありません。お母さんをはじめとした周囲の人や物、空間といった環境と関わることがあってはじめて発達が促されるのです。特に言語については、人との相互作用の中でしか発達しないのです。この相互作用をうながすのは赤ちゃんの方からだと言われています。

目の前に赤ちゃんがいたら、ついついあやしたくなります。普段は出さないような高い声を出して、「かわいいですねー!」なんて語りかけませんか。この赤ちゃんへの語りかけにもいろいろな特徴や意味があるのだそうです。

大人が赤ちゃんに語りかける声には、高い声、豊かなイントネーション、明瞭な母音、ゆっくり、発話が短い、発話間のポーズが長い、などの特徴があるそうです。赤ちゃんに語りかけるときに声が高くなるのは、どの言語においても共通しているだけでなく、男女にかかわらず声が高くなります。そして、豊かなイントネーションになることは、容易に想像できます。成人に対するときよりも明らかに抑揚をつけて話します。

そして、母音をはっきりと話し分けるそうです。これもどの言語にも共通しています。母音を発音するときの、口の開き、舌の位置の相違によって生じる音色の相違を三角形に配置して示した母音三角形と呼ばれる図式があるのですが、/a/i/u/ の各母音の差が大きいほど、三角形の面積が大きくなる。つまり母音を明瞭に話し分けていることになります。母音をはっきりと話す事で、赤ちゃんが聞き取りやすくなるのです。

赤ちゃんに対する話し方に似た話し方をする対象として、かわいがっているペットに話しかけるときがあります。確かにペットに話しかけているのを思い出してみると、赤ちゃんに話しかけるときに似た話し方をすることがあります。しかし、ペットに話していることばと、赤ちゃんに話しかけていることばを比較すると、母音三角形の面積は異なるそうです。もちろん、赤ちゃんに話しているときは面積が大きくなる、母音を明瞭に話し分けるのに、ペットの場合は母音三角形の面積は小さいそうです。ペットには言語を聞き取る必要はありません。私たちは知らず知らずのうちに、赤ちゃんが聞き取りやすい話し方をしているのです。

ことばをまなぶ 5

2013/09/04

音声知覚が母語に最適化される生後6〜8カ月から10〜12カ月までに、母語以外のことばを体験すると、そのことばに特有の音も聞き分けられるようになる。という実験結果があります。お父さんが英語を話し、お母さんが日本語を話すといったバイリンガルの人たちは、2つの言語の音を聞き分けることができるようになります。しかし、単純に複数の言語が同じように使えるようになるという訳ではなさそうです。お父さんと話すときは英語で、お母さんと話すときは日本語というように、場面によって使い分けたりすることもあるでしょう。二つの言語の間を行ったり来たりしながら話さなければならないので、バイリンガルの人はバイリンガルの人の苦労があるのだと思います。子どもの時にどちらかだけを使おうとする事もあるそうです。

バイリンガルの人は、ものごとを考えるときにはどちらの言語を使うのでしょうか。その時の状況によるのでしょうか。その時々で自然に選んで考えているのでしょうか。英語と日本語であれば、英語を話す人と話すときは英語で考え、日本語で話すときは日本語で考えているのかもしれません。話す相手がいなくて、ひとりで思索にふけるときなどはどうするのでよう。

いずれにしても二つの言語を行ったり来たりするのには、それなりのエネルギーが必要なのだと思います。

バイリンガルの子に育てるには決して親が教えようとしてはいけない。一緒に学んだり、一緒にことばを使って楽しんだりするなかで、自然に身につけてゆくのが良いといったことを聞きます。

赤ちゃんの時に、2つの言語を聞き分ける能力を持ったとしても、その後2つの言語を使おう、使いたいという意欲が本人になくては、使えるようにはならないのだと思います。
以上は全く私の思ったことなので、学術的な裏付けがあるわけではありません。

麦谷博士の講義の最後にこんな質問が寄せられました。「赤ちゃんの時に言語の知覚が母語に最適化されるなら、大人が英語を聞き流すだけで英語が上達するということはないのですか?」それに対して、麦谷博士は、第2言語を学習する場合は、本人の意欲が一番重要な要素であり、いろいろな教材があるが、どの教材を使っても本人の学ぼうとする意欲が低ければ習得は難しいし、意欲が高ければ習得できる。といった意味のことを答えていらっしゃったように思います。

語学に限らず、どんなことに対しても、この意欲というのが大切なのではないでしょうか。子どもに無理矢理やらせると、そのときは渋々やっても、やらせないとやらなくなります。やりたい、やってみたいという意欲を喚起することが、子どもが自らそのことに取り組むことに繋がるのです。まさに子ども主体、それが大切なのだと思います。

ことばをまなぶ 4

2013/09/03

赤ちゃんは、生後6カ月から8カ月くらいまでなら様々な言語の音を聞き分ける力を持っているのに、1歳頃には母語を聞くことに特化してくるので、母語にない音は聞き分けることが難しくなってくる。そんなことを聞くと、「早いうちに赤ちゃんに英語を聞かせなくては!」なんて思う方がいらっしやるのではないでしょうか。パトリシア・クール博士の実験でも、アメリカ人の赤ちゃんに中国語を聞く機会を与えたら、中国語に特有の音も聞くことができるようになったという結果が出ました。ただしそれは、生身の人間が対面して話したときにのみ有効だということもわかりました。

NTTコミュニケーション科学基礎研究所人間情報研究部 麦谷 綾子 博士は「もったいない?」と表していらっしゃいました。「外国語を学習するのに、この時期を逃すのはもったいない。と思っていませんか。」ということなのだと思います。せっかく、あらゆる言語の音を聞き分ける力を持っているのに、その時期にいろいろな言語に触れる機会がないのはもったいないと考えるのも無理はないかもしれません。

ところが、麦谷博士はこんなデータを示してくださいました。生後7カ月の時に、英語の “L” と “R” の音を聞き分けていたグループと、聞き分けられなかったグループの2グループを2歳半まで追跡調査し、母語の語彙数を調べたところ、“L” と “R”を聞き分けられなかったグループの子どもたちの方が聞き分けた子どもたちのグループに比べて母語の語彙数が多かったそうです。

つまり、7カ月の時点で英語の “L” と “R” が聞き分けられなかったグループの赤ちゃん達は、その時点で聞き分けられたグループの赤ちゃんよりも母語に対する最適化が進んでいたということです。最適化とは母語に適した音の聞き取りがよりできるようになるということですが、英語を聞き分けられなかったグループはその時点で、より母語に適した音の聞き取りができていた。だから、母語のことばの発達が早く、2歳半の時点での語彙数が増えていたということです。

だから、この時期に無理に英語を聞かせることが、絶対に良いとは言い切れないのです。

赤ちゃんは生まれたときには、母語に依存しない音声知覚を持っていて、生後6カ月ごろから知覚の最適化がはじまり、1歳くらいまでに母語に適した音声知覚に変わってゆくということが言えます。

赤ちゃんはあらゆる能力を持っていて、時を経るにつれて自分が生活する環境にあわせて不必要な部分をそぎ落としてゆく、それが発達なのですね。だからこそ、まわりの環境が大切なのだと思います。無味乾燥で殺風景な部屋で過ごせば、五感を刺激するものが少ないので、五感で感じるという発達が限定されてしまいます。あらゆる場所と機会を捉えて、五感を刺激する環境を用意しておく必要があると思うのです。そうすれば、子どもが自らその環境に関わり、豊かに発達してゆくのです。

ことばをまなぶ 3

2013/09/02

NHKの番組、スーパープレゼンテーション 必見!赤ちゃんの脳は外国語をどう学ぶ?で取り上げられていた、ワシントン大学学習脳科学研究所所長パトリシア・クール博士の“The linguistic genius of babies”というプレゼンテーションがあります。言語習得を中心とした子どもたちの学習能力の研究から、赤ちゃんの言語習得についての研究成果をわかりやすく伝えてくださっています。

赤ちゃんは、どんな言語でも聞き取ることができる「世界人」ですが、大人は聞き取ることができません。では、いつ「世界人」ではなくなるのでしょうか。それは1歳になる前です。とクール博士はおっしゃっています。前回紹介した “L” と “R” を聞き分ける実験などの結果からそれがわかるのです。生後6カ月〜8カ月くらいだとアメリカの赤ちゃんも日本の赤ちゃんも “L” と “R” を聞き分ける能力に差がないのに10カ月〜12カ月になるとアメリカの赤ちゃんは “L” と “R” の聞き分けがより良くできるようになっているのに対して、日本の赤ちゃんは聞き分けができなくなってきているという実験結果は、赤ちゃんが母語習得への準備を始めているということです。

この2カ月の間に赤ちゃんには一生懸命にことばを聞いて脳内で統計を取っているそうです。英語で赤ちゃんに語りかけるアメリカ人のことばには“L” や “R” の音がたくさん出現しますが、日本語を話す日本人のことばには日本語独特の “L” と “R” の中間の音、日本語独特の “R 音”が多く出現します。これを聞いて赤ちゃんは脳内で統計を取り、その統計が赤ちゃんの脳を変化させて、「世界人」ではなくなるのです。

では、バイリンガルの環境ではどうなのでしょうか。この月齢のアメリカ人の赤ちゃんに、中国語を聞かせる機会を与えた実験では、中国語特有の音も聞き分けられるようになったそうです。

しかし、ここには重要な要素があります。それは、中国語を話す人が直接、赤ちゃんに話しかける必要があるのです。音声だけで中国語を聞かせる、もしくは映像メディアを通して話しかけた赤ちゃんは中国語を聞き分けるようにはならなかったそうです。生身の人間が直接話しかけたときにだけ、聞き分ける事ができたのです。パトリシア・クール博士は、これは社会脳が赤ちゃんに統計を取らせるからだとおっしゃっていました。

赤ちゃんが、言語を習得するのは、自分が所属する社会でより良く生きてゆくためなのです。その社会は生身の人と人の関わりということです。決してぬいぐるみとの関わりでもないし、モニターを通した関わりではないのです。この話を聞いて赤ちゃんは「社会を構成する」という目的のために、自分の所属する社会の環境に最適化できるように、できているのだと思いました。母語に最適化するのは、自分の所属する社会により最適化するということなのです。ですから、生身の人間と対面したときにのみ、脳が統計を取ったのです。

社会には、多様な人がいますし、多様な人と関わってより良く生きることが必要になってきます。ある年の4月2日生まれから翌年の4月1日生まれの人だけが集まる社会というのは、日本の学校に限られた非常に特異な集団です。学校を卒業して社会に出れば、様々な年齢の人と関わりあって生きてゆかなくてはなりませんし、それが自然なことです。だからこそ、乳幼児期には、異年齢のいろいろな人と関わる事のできる環境を用意しておかなくてはならないと思いました。

ことばをまなぶ 2

2013/09/01

赤ちゃんはどのようにして、ことばを獲得してゆくのか。麦谷 綾子先生の講義を聴かせていただいた感想を書かせていただいていますが、私の聞き間違いや理解不足のために不正確な部分があるのは私の間違いです。ご容赦ください。

赤ちゃんはおかあさんのお腹の中で、しっかりと音を聞いている。昼ドラの主題歌をも聞いているというのには、驚きました。聞くだけではなく、泣き声にも違いがあるそうです。ドイツ語を母語とする新生児とフランス語を母語とする新生児の泣き声を比べてみると、泣き声の高さと強さの変化の特徴は、それぞれの母語の音声特徴に似ているそうです。ドイツ人の赤ちゃんはドイツ語っぽい泣き方をして、フランス人の赤ちゃんはフランス語っぽい泣き方をすると言うことなのです。これらのことから、新生児には基本的な聴覚機能と、ことばを学習する能力が備わっていると言うことがわかります。

では、赤ちゃんは生まれてからどのように言語機能を発達させてゆくのでしょうか。その一つは、母語の音声体系に最適化する過程だといえそうです。母語の音声体系に最適化されてゆくのはいつ頃かを調べた実験があります。英語の “L” の音と “R” の音は私たち日本語を母語とする人にとって聞き分けるのが難しい音の一つです。英語を勉強して。ここで躓く人は多いのではないでしょうか。この英語の “L” と “R” を聞き分けるようになる時期を調べたのです。

それはこんな実験です。赤ちゃんに la la la la la la・・・というLの音を聞かせます。それが突然 ra ra ra ra ra・・・と言う音に変わります。その瞬間に、マジックミラーの奥に隠された人形達にライトが当たり、人形が動き出します。すると赤ちゃんはそちらを振り向きます。このことを何度か経験したあと、ある程度慣れて来たら、“ra” の音が聞こえてから人形が光り出すまでのタイミングを少し遅らせます。赤ちゃんが “la” と “ra” を聞き分けていたら、人形に光が当たり動き出す前にそちらの方を見るという実験です。

この実験を英語が母語であるアメリカ人の赤ちゃんと、日本語が母語の日本人の赤ちゃんで比較してみます。そうすると生後6カ月〜8カ月の赤ちゃんでは、アメリカ人の赤ちゃんも日本人の赤ちゃんも同じように “L” と “R” を聞き分けていることがわかりました。それが生後10カ月〜12カ月の赤ちゃんでは、アメリカ人の赤ちゃんはLとRを聞き分ける率が上がりますが、日本人の赤ちゃんは聞き分ける率が下がってきて差ができます。ということは、生後6カ月から10カ月の間に赤ちゃんが母語に含まれる音を聞くことに最適化されてゆくことを示しているという意味です。

ちょうどこの講義を聞く少し前にNHKのスーパープレゼンテーション 必見!赤ちゃんの脳は外国語をどう学ぶ?という番組の録画を見ていたら、赤ちゃんの脳の発達と言語習得の関係を研究するパトリシア・クール博士のプレゼンテーションで同じ実験が紹介されていたので、すぐに実験の意味が理解できました。

それにしても、生後6カ月から12カ月という短い期間に赤ちゃんは、自分の母語を聞く力をつけるというのは驚きです。こういうと少し不正確です。生まれたての赤ちゃんは、どの言語の音でも聞き分ける能力を持っているのです。それが、成長するにつれて、自分が生きてゆくのに必要のない部分を切り捨てて、自分の生活環境に最適な能力を伸ばしてゆく、「刈り込み」ということが行われているのです。

ことばをまなぶ 1

2013/08/31

赤ちゃんがどうことばを獲得してゆくかについて興味深いお話を伺うことができました。講師は、NTTコミュニケーション科学基礎研究所人間情報研究部 麦谷 綾子先生です。NTTコミュニケーション科学基礎研究所は、「情報」と「人間」を結ぶ新しい技術基盤の構築に向けて、情報科学と人間科学の両面からこの問題に取り組んでいる研究機関で、先生は人間情報研究部で、乳幼児の母語音声システムの構築・獲得過程を研究していらっしゃいます。

今回は「ことばのはじまり」というテーマでお話ししてくださいました。言語は人間だけが持っている高度な認知機能ですが、それを生まれてからわずか数年で自由に操ることができるようになります。これを機械で再現しようとするとかなり大変なことになるそうです。また、チンパンジーにことばを覚えさせようという実験は何度か行われていますが、食べ物が欲しい。飲み物が欲しいといったことを表すことはできますが、やりとりをするような高度な言語の使い方はできないそうです。人間は共感する能力があるから、言語を操ってコミュニケーションすることができるのだそうです。

また、大人になると言語獲得が難しくなることは、英語をはじめとする外国語を学ぶのに苦労することでもわかります。赤ちゃんの時期はことばを獲得するのに最適な時期なのだそうです。

ことばのはじまりについて、先生は論点を3つに整理して話してくださいました。1.ことばの獲得のはじまりについて 2.母語の音を聞き分ける能力の発達について 3.語りかけについて です。

赤ちゃんはお母さんのお腹の中にいるときから、五感を働かせて主体的に生きていることが赤ちゃん学研究の発達によってわかってきました。その中で聴覚は28週くらいまでには発達し、赤ちゃんはおなかのなかで様々な音を聞いていますが、内耳機能の発達が途上なのと、胎内では高い音が伝わりにくいので、母音や低い周波数の音を比較的多く聞いているようです。赤ちゃんが生まれてからどんな音を好んで聞くのか、どんな音に注意を払うのかという実験があります。その方法は前にも紹介した吸てつ法という赤ちゃんがおしゃぶりを吸う力や回数を計ることによって計る方法です。あかちゃんがおしゃぶりをくわえて、ヘッドホンで音を聞かせます。赤ちゃんが興味を持っている音が聞こえてくると、強くおしゃぶりを吸うという反応を使って調べたそうです。

その結果は、外国語と母語では母語を、母親の声と母親以外の女性の声では母親の声を選好したそうです。ある程度予想できそうな結果ですが、胎内で聴いたおはなしとそれ以外のおはなしでは胎内で聞いたものを、胎内で聴いた子守歌とそうでない子守歌では胎内で聴いた子守歌を選好したというのです。物語や子守歌まで聞き分けているのです。ちなみに妊娠中にソープオペラと呼ばれる昼ドラを見ていたおかあさんたちと、そうでないお母さんとに分かれ、それぞれの赤ちゃんがソープオペラの主題歌を選好するかどうかを調べた実権では、ソープオペラを見ていたお母さんの赤ちゃん達は、ドラマの主題歌を選好したそうです。
赤ちゃんは聞いているのです。

しあわせ 6

2013/08/30

人間の欲望には際限がないということはよく言われます。確かにそうでしょう。いくらお金を持っていても、もっと欲しいとなるでしょうし、いくら良いものを持っていても、もっと良いものが欲しいとなります。欲しいという欲望と、持っていないという現実の間に苦しみが生まれ、しあわせではなくなります。

ほどほどのところで、「これで充分足りている」と満足できると、苦しみは少なくなって、しあわせを感じることができます。ほどほどを知り、そこで満足できると良いのでしょうけれども、なかなかむずかしいことなのかもしれません。
ただ、自分と違う生活をしている人がいること、「あんな生活したいな」「こんなモノが欲しいな」と思います。しかし情報がなく、自分自身の今の生活が特に不自由はないし、満足できていると、しあわせでいられると思います。それも、しあわせだと思います。
いろいろな情報に触れている中ででも、自分は自分でしあわせと感じられるためには、どうすれば良いのでしょうか。自分でそう思うこと。「私はしあわせだ。」と思うことなのでしょうか。それができれば、物質的な欲望による執着は少なくなるかもしれません。

世界には昔ながらの生活をしていて、未だにお金を使わないで生活している人たちがいます。また、まさに今、お金を使うこ社会に移行しようとしている地域もあって、研究者達の関心を集めているようです。お金を使うことなく生活している人々は、誰かが食べ物を得てきたら、必ずすべて等しく分配するそうです。だれがとってきても、全員に均等に分けるのです。他のものもそうだと言います。

ところが、お金を使い始めた社会では、より多くのお金を得ようとする人が出てきて、開墾をして畑を広げるなど、何か違うことをやろうとするそうです。お金を使わない社会は平等だけれども、横並びで発展(このことばが適切なのかどうかは分かりませんが)変化が少ないといいます。ところがお金を使い始めると、少しでも多くお金を得ようとして、工夫をしたり、アイデアを出したりするのです。平等ではありませんが、何か新しい物や事を生み出す原動力にはなるようです。より多くのお金を得たいという欲望が社会を発展させる原動力となる一面があることも事実です。

しあわせってなんでしょうか?やっぱり難しいと思います。

しあわせ 5

2013/08/29

ブータンの第2回目の総選挙で野党が勝利し、政権が交代するだろうと報道されていました。その背景として、野党が中国に接近したことで、最大の援助国であるインドからの援助が一部停止されたこと、失業問題、格差問題等があげられると、いろいろな新聞で報道されていました。京都新聞では、テレビ放送や携帯電話サービスなどの情報化が進んだことで、地方出身者が都市部と地方の農村部と差を情報化の中で知るようになり、少しでも富を得ようと都市部に流入しているのが、現在のブータンの状況だと解説していました。新聞によって少し視点が違うのがおもしろいと思います。

首都ティンプーの通りを歩くと、韓国ドラマの俳優やアイドルの髪型ファッションをまねた若者とすれ違うが、短い髪をオレンジ色に染めた彼らのひとりは「海賊版のDVDでドラマや映画を見るのがたのしみ。GNHはもちろん知っているけど、実感として分からない。」という。と記事にありました。2005年の政府の調査では、地方在住の96%がしあわせと答えたが、今調査をやれば、この数字より低いのは確実。という人もいるそうです。

以前、ティンプーに行ったときには、ほとんどの人が、男性は「ゴ」女性は「キラ」という民族衣装をまとっていたのを覚えています。20年ほど前のことなので当然かもしれませんが、韓国ドラマのアイドルの髪型やファッションをまね、髪をオレンジ色に染めたひとはいませんでした。これが変化なのでしょうね。

農業を営み自給自足や相互扶助のなかで、「しあわせ」と感じていたブータンの農村の人々、情報化によって外の世界のことを知るようになって、テレビで見るようなものがほしい、あんな生活をしてみたい。と思うようになったということでしょうか。それほど単純なことではないのかもしれませんが・・・

情報化によって、いろいろなことを知ることにより、あれがほしい、これもほしいと欲望をかき立てられる。そうすると今まで満たされていた心が、満たされなくなってしあわせを感じられなくなるのでしょうか。それなら、入ってくる情報を制限して外の世界を知らないまま過ごしていた方が、しあわせだったということになります。それもどこか変な気がします。しあわせってなんでしょう?どこにあるのでしょうか?

しあわせ 4

2013/08/28

ブータンの2回目の総選挙で、野党が圧勝した背景を、各紙が報じていましたが、京都新聞の記事は少し異なった視点でとらえられていました。「総選挙で変革を求める民意の後押しを受けた野党が勝利。都市化や情報化が進む中、しあわせに対する意識が徐々に変化、より良い生活を率直に求める層が増えていることが背景にある。」
としています。これまで自給自足や相互扶助で成り立ってきた農業社会のブータンで、GNHは国民に指示され浸透してきた。ところが、1999年にテレビが解禁され、2003年に携帯電話サービスが始まることで情報化が進んだことで、外国の情報が入ってくる。都市部と地方の所得や発展の差を地方出身者が知るようになる。そうすると少しでも富を得ようと都市部に流入してくる人が増えているのが現状なのだそうです。今回の選挙では今まで変化を求めなかった地方の選挙区で野党が勝利したことで、変革を求める民意がはっきりしたと考えられる。都市と地方の格差があまりにも大きくなり、国民が等しくGNHの理念を共有できない状況になっているとしています。

外から入ってくる情報が少ない時はそれなりにしあわせを感じることができていたのに、様々な情報に触れることで格差を知り、現状に満足できなくなってそれまで感じていたしあわせが感じられなくなってしまった。ということなのでしょうか。情報化が進み、より多くのことを知れば知るほど、しあわせは遠ざかってゆくのでしょうか。

人間の欲望には際限がないので、どんなに豊かになっても、さらにもっとほしくなってしまうのでしょう。知足ということがあります。文字通り足るを知るということです。「私にはこれで充分」と思う事ができれば、しあわせは逃げてゆかないのかもしれません。

しあわせ 3

2013/08/27

ブータンで2回目の総選挙が行われ、野党が勝利したという報道がされていました。

8世紀、チベット仏教がブータンにもたらされ、それ以来ブータンの社会、文化などすべての面でチベット仏教が大きな役割を果たしてきましたが、国を統一する政治的な枠組みが作られたのは、1616年チベット仏教ドゥック派の高僧シャブドゥン・ンガワン・ナムゲルがチベットからやってきたことに始まります。しかし、実際は多くの地方領主がそれぞれに力を持っていた状態が長く続いていたそうです。1907年ウゲン・ウォンチュックが初代ブータン国王に就任してからブータンはウォンチュック朝の世襲君主に治められるようになりました。その後第三代国王、ジグミ・ドルジ・ウォンチュックは、より民主的な政治を確立するために、1953年に国民議会を設立します。それ以来国王によって徐々に民主化が進められ、2008年に憲法が施行されて立憲君主制に移行しました。国家評議会(上院)と国民議会(下院)による両院制で最初の総選挙では47議席中ブータン調和党 (DPT) が45議席を獲得して圧勝し、第2党の国民民主党 (PDP) は2議席でした。今年2回目の総選挙が行われた結果、野党の人民民主党(PDP)が半数を大きく超える32議席を確保し、与党のブータン調和党(DPT)は15議席にとどまりました。

その結果についてインターネットのニュースサイトでは様々な分析が為されていました。
「都市への人口流入に伴う若者の失業増といった社会問題の深刻化に不満を持つ有権者から野党が支持を集めた。」「ブータン調和党(DPT)の中国への接近姿勢が、最大支援国であるインドとの関係が後退する原因となった。」「『幸福の国』を掲げる同国の『国民総幸福量』(GNH)指標や経済の先行きに対する国民の不安を反映している。」といった具合です。

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